
「なぜか人を心から信頼できない」
「子どもの行動が理解できず、どう接していいか分からない」
「見捨てられるのが怖くて、人間関係をリセットしてしまう」
こうした悩みの背景には、「愛着(アタッチメント)」という、こころの土台の問題が隠れていることがあります。
愛着障害は、決して特別な誰かだけの問題ではありません。
この記事では、愛着障害の正体から、子ども・大人それぞれの症状、そして回復のために「安全基地」を取り戻す方法について詳しく解説します。
1. 愛着障害の基本:こころの「安全基地」が作られるまで

愛着とは、乳幼児期に特定の養育者(主に親)との間に築かれる「心理的な絆」のことです。
精神的生存のための「安全基地」
赤ちゃんは、空腹や不安を感じたときに泣いてシグナルを送ります。
それに対して「大丈夫だよ」と適切に応答してもらう経験を繰り返すことで、赤ちゃんの心の中には「この世界は安全だ」「自分は守られている」という信頼の基礎が作られます。
心理学ではこれを「安全基地」と呼びます。
この基地がしっかりしているからこそ、子どもは外の世界を冒険し、失敗しても戻ってきてエネルギーを補給できるのです。
「内部作業モデル」という心の地図
幼少期に築かれた愛着の形は、「内部作業モデル」として心に刻まれます。
これは、その後の人間関係を築く際の「無意識の地図」になります。
安定した愛着: 「人は助けてくれる」「自分には価値がある」という地図。
不安定な愛着: 「人は信じられない」「自分は拒絶される」という地図。
愛着障害とは、この「地図」がうまく描けず、世界が不安な場所になってしまっている状態を指します。
2. なぜ愛着障害が起こるのか?その背景にあるもの
愛着障害は、単に「愛情が足りなかった」という一言で片付けられるものではありません。
その背景には、赤ちゃんのシグナルと養育者の応答が「噛み合わなかった」という複雑な事情があります。
主な要因
不適切な養育(ネグレクト・虐待): 体罰や暴言だけでなく、無視や無関心も大きな傷になります。
頻繁な養育者の交代: 入院や離婚、施設入所などで、特定の相手と一貫した絆を結べなかった場合。
養育者側の事情: 親自身が重い病気や精神疾患を抱えていたり、強いストレス下にいたりして、赤ちゃんのケアに十分に応答できなかったケース。
ここで大切なのは、「親の性格」や「子どもの気質」だけを責めるものではないということです。環境やタイミングといった不運が重なり、こころのダムが壊れてしまうこともあるのです。

3. 子どもの愛着障害:2つの代表的なサイン
医療現場では、愛着障害は主に以下の2つのタイプに分類されます。
① 反応性愛着障害(RAD)
「抑制型」とも呼ばれ、人を避けるような反応が目立ちます。
特徴: 困っても助けを求めない、抱っこを嫌がる、表情が乏しい、一人でいても平気なように見える。
背景: 「求めても無駄だった」という諦めが根底にあることが多いです。
② 脱抑制型対人交流障害(DSED)
「脱抑制型」と呼ばれ、誰にでも過剰に懐いてしまうタイプです。
特徴: 初対面の人にベタベタ甘える、知らない人の手をついて行ってしまう、警戒心が極端に低い。
背景: 特定の安全基地がないため、誰でもいいから自分を埋めてくれる存在を探し続けている状態です。
【重要】発達障害(ASD/ADHD)との見分け方
愛着障害と発達障害(自閉スペクトラム症など)は、症状が非常に似ているため、専門医でも慎重な診断が必要です。
共通点: 視線が合いにくい、対人関係の難しさ、感情コントロールの苦手さ。
違い: 発達障害は「生まれ持った脳の特性」であるのに対し、愛着障害は「環境(関係性)による傷つき」が主因です。ただし、この両方を併せ持っているケースも少なくありません。

4. 大人の愛着障害:仕事や恋愛に現れる「生きづらさ」
幼少期の愛着の問題が解決されないまま大人になると、社会生活や親密な人間関係において独特のパターン(愛着スタイル)として現れます。
| 愛着スタイル | 特徴と悩み |
| 不安型 | 相手に嫌われないか常に不安。過度に尽くしたり、過干渉になったりする。「見捨てられ不安」が強い。 |
| 回避型 | 他人と親密になることを避ける。感情を出すのが苦手。一人を好み、依存されることを嫌う。 |
| 恐れ・回避型 | 「近づきたいけれど怖い」。人を信じたいのに、裏切られるのを恐れて自分から関係を壊してしまう。 |
大人になって気づく「空虚感」
仕事で成功していても、心の中に「ぽっかりと穴が空いたような感覚」があったり、自分の価値を信じられなかったりする場合、それは幼い頃に作られなかった「安全基地」の影響かもしれません。
5. 愛着障害は克服できる?「獲得された安定」への道

「もう大人だし、過去は変えられない」と絶望する必要はありません。脳には可塑性(変化する力)があり、愛着は人生のどの段階からでも再構築が可能です。
①「安全な他者」との出会い
かつての親に代わって、あなたのシグナルを正しく受け止めてくれる存在を見つけることです。それはパートナーかもしれませんし、親友、あるいはカウンセラーかもしれません。
「何を言っても拒絶されない」という体験を積み重ねることで、心の地図は書き換えられていきます。これを専門用語で「獲得された安定的愛着」と呼びます。
② 自己理解(自分のナラティブを作る)
自分が受けてきた養育を客観的に見つめ直し、「あんなことがあったけれど、今の自分はこう生きている」という一貫したストーリー(物語)として整理することです。
6. あなたの「安全基地」を自宅に。訪問看護という選択肢
愛着障害や、それに伴う不安定な感情に悩むとき、最も高いハードルは「他人を信頼して助けを求めること」そのものです。病院へ行くことさえ、「拒絶されたらどうしよう」「自分の苦しみを分かってもらえないかも」と不安になり、足を運べなくなることがあります。
そんなときに活用していただきたいのが、「精神科訪問看護」です。
訪問看護が愛着の回復に役立つ理由
・一貫した関係性: 毎回同じ看護師が、あなたの生活の場である「自宅」へ伺います。この一貫性が、安全基地を作る第一歩になります。
・ありのままを認める: 看護師はあなたの「今」を評価せず、受容します。あなたが「甘えてもいい」「本音を言ってもいい」と感じられる時間を共有します。
・日常生活のサポート: 愛着の問題で感情が乱れ、生活リズムが崩れているとき、具体的にどう過ごせば心が落ち着くのかを一緒に考え、伴走します。
「一人じゃない」という実感
愛着障害の回復には時間がかかります。一人で戦うのはあまりにも過酷です。専門的な知識を持ちながら、あなたの人生の隣を歩く看護師がいれば、世界は少しずつ「安全な場所」へと姿を変えていくはずです。
もし、あなたが今「誰も信じられない」という暗闇の中にいるのなら。訪問看護という扉を少しだけ開けてみてください。私たちは、あなたのこころの安全基地を再構築するための、最初の「安心できる隣人」になりたいと考えています。

訪問看護ステーションリスタには愛着障害への対応も含め、精神科に強い看護師が在籍しています。
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